2026年度の最低賃金は全国平均1,177円へ|東京・千葉の改定額と企業が確認したい実務対応
2026年度の地域別最低賃金について、47都道府県すべての答申がまとまりました。全国加重平均額は1,177円で、前年度の1,121円から56円の引上げです。全国加重平均で56円という引上げ幅は、1978年度に目安制度が始まって以降で2番目の高さとなりました。
東京・千葉では、2026年10月1日から新しい最低賃金が発効しています。
| 地域 | 2026年度 | 改定前 | 引上げ額 | 発効日 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 1,280円 | 1,226円 | 54円 | 2026年10月1日 |
| 千葉県 | 1,195円 | 1,140円 | 55円 | 2026年10月1日 |
最低賃金の改定というと、対象者の時給を新しい金額へ変更すれば終わりと考えがちです。しかし実際には、残業代、社会保険料、既存従業員との賃金バランス、パート・アルバイトの勤務時間、人員配置にも影響が広がります。
この記事では、2026年度の改定内容を確認するとともに、中小企業が最低賃金対応を「毎年の金額修正」だけで終わらせないための実務上のポイントを解説します。
※本記事は2026年10月14日時点の公表情報をもとに作成しています。
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監修者
桜井 吏(さくらい つかさ)
特定社会保険労務士
中小企業診断士
生年月日:1990年(平成2年)生まれ
出身地:山形県米沢市
趣 味:スポーツ全般
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2026年度の最低賃金は全国加重平均1,177円へ
厚生労働省によると、2026年度は47都道府県すべてで54円から65円の引上げが答申されました。改定後の最高額は東京都の1,280円、最低額は宮崎県の1,085円です。
ここで注意したいのは、全国加重平均の1,177円がそのまま自社に適用されるわけではないことです。地域別最低賃金は、原則として事業場が所在する都道府県ごとに確認します。
また、特定の産業に適用される「特定(産業別)最低賃金」が地域別最低賃金より高い場合は、高い方の金額が適用されます。
複数の都道府県に事業場がある企業では、本社所在地だけで一括判断せず、事業場ごとに確認する必要があります。
派遣労働者については、派遣元ではなく派遣先の事業場に適用される最低賃金を確認します。
最低賃金は、正社員、契約社員、パート、アルバイトなどの名称や雇用形態を問わず適用されます。
「学生アルバイトだから」「試用期間中だから」という理由だけで、当然に最低賃金を下回ることはできません。
「最低賃金ぎりぎり」を毎年直す運用には限界がある
近年は最低賃金の大幅な引上げが続いています。来年度の引上げ額はまだ決まっていませんが、
今後も改定が続く可能性を考えれば、法定最低額と同額へ毎年機械的に変更するだけの運用には限界があります。
最低賃金ぎりぎりの時給を設定していると、改定のたびに雇用契約、給与計算システム、求人票などを修正しなければなりません。
対応が遅れれば、意図せず最低賃金を下回るリスクもあります。

桜井労働法務事務所では、採用相場や会社の収益力、社内の賃金表を踏まえたうえで、
最低賃金に一定の余裕を持たせることも現実的な選択肢だと考えています。
もちろん、すべての会社に共通する上乗せ額があるわけではありません。
必要なのは、「今年の法定額を超えているか」だけではなく、次の改定、採用競争力、既存従業員とのバランスまで含めて、自社の時給を決めることです。
最低賃金の引上げは時給以外のコストにも影響する
時給を引き上げたとき、増えるのは通常の労働時間に対する賃金だけではありません。
・時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金
・賃金額に応じて変動する社会保険料や労働保険料
・通常の賃金方式で有給休暇日の賃金を支払う場合の金額
・既存従業員の賃金見直しに伴う人件費
例えば、千葉県で改定前の最低賃金と同額だった従業員20人が、それぞれ月100時間勤務しているとします。
最低賃金の55円引上げだけでも、単純計算で月11万円、年間132万円の賃金増加です。
実際の総人件費を考えるときは、これに割増賃金や保険料への影響なども加えて試算します。
また、最低賃金に近い層だけを引き上げると、経験の長い従業員やリーダーとの時給差が小さくなることがあります。
新人が1,280円、経験者が1,300円という状態になれば、「責任や経験に対する差が20円でよいのか」という問題が生じます。
最低賃金対応をきっかけに、初任時給だけでなく、昇給基準、役割手当、等級ごとの賃金差も確認しておくことが大切です。

最低賃金以上かを正しく確認する方法
時給制であれば、基本的には時給額と最低賃金を比較します。日給制や月給制では、時間額へ換算して確認しなければなりません。
・時給制:時給額
・日給制:日給額 ÷ 1日の所定労働時間
・月給制:最低賃金の対象となる月給額 ÷ 1か月平均所定労働時間
月給制の場合、単に基本給を月の実労働時間で割るわけではありません。就業規則や会社カレンダーに基づく「1か月平均所定労働時間」を確認します。
例えば、最低賃金の対象となる月給が22万円、1か月平均所定労働時間が173.8時間の場合、時間額は約1,266円です。
東京都の1,280円と比較すると最低賃金を下回るため、月給の見直しが必要になります。
さらに、最低賃金の計算からは、次の賃金を除外します。
・臨時に支払われる賃金
・賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
・時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金部分
・精皆勤手当
・通勤手当
・家族手当
手当の名称だけで判断せず、実際の支給条件と内容を確認することが重要です。
「総支給額では最低賃金を超えている」と思っていても、除外する手当を差し引くと下回っていることがあります。
最低賃金を下回る合意を従業員との間でしても、その部分は無効となり、最低賃金との差額を支払う必要があります。
地域別最低賃金に違反した場合は、最低賃金法により50万円以下の罰金が科されることもあります。
時給上昇と「年収の壁」による就業調整
パート・アルバイトの時給が上がると、扶養の範囲を意識して勤務時間を減らしたいと考える従業員が出てくることがあります。
例えば、同じ年間収入の範囲に収める場合、時給が上がれば働ける時間は短くなります。
企業にとっては、本人の手取りだけでなく、必要な勤務時間を確保できるか、繁忙時間帯のシフトを維持できるかという問題でもあります。
いわゆる「年収の壁」には、税制上の基準と社会保険上の基準があり、すべてを「103万円の壁」として扱うのは適切ではありません。
社会保険では、約106万円や130万円と呼ばれてきた基準がありますが、制度改正も進んでいます。

短時間労働者の社会保険加入要件のうち、月額8万8,000円以上という賃金要件について、2026(令和8)年10月1日に撤廃されました。
(引用:https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/jigyosho/2026/202610/100104.html)
そのため、「年収を一定額以下にすればよい」と単純に判断するのではなく、
週の所定労働時間、企業規模、学生かどうか、配偶者の健康保険における被扶養者認定などを個別に確認する必要があります。
企業としては、従業員が勤務時間を減らしたいと申し出てから対応するのではなく、時給改定前後に働き方の希望を確認しておくことが有効です。
社会保険へ加入して勤務時間を維持・延長する選択肢も含め、本人に制度を説明し、会社側の人員配置とすり合わせていきます。
企業が2026年秋に実施したい5つの確認
1.対象者と適用される最低賃金を洗い出す
全従業員について、勤務する事業場、雇用形態、賃金形態、適用される地域別・特定(産業別)最低賃金を一覧にします。
2.時間額へ換算し、除外する賃金を確認する
月給者や日給者も対象です。通勤手当、家族手当、精皆勤手当などを除外して計算します。
3.総人件費を試算する
基本給・時給の増加だけでなく、割増賃金、社会保険料等、賃金表全体への影響を確認します。最低層と経験者層の賃金差も見直します。
4.関連書類と給与設定を更新する
雇用契約書、労働条件通知書、賃金規程、求人票、給与計算システムなどに古い金額が残っていないか確認します。
変更内容と適用日を従業員へ分かりやすく伝えます。
5.翌年度を見越して賃金とシフトを設計する
最低賃金と同額に合わせるだけでなく、採用相場、会社の支払能力、次回改定への余裕を検討します。
あわせて、扶養や社会保険を意識する従業員の勤務希望を確認し、必要な人員を確保できるシフトへ見直します。
まとめ
2026年度の最低賃金は、全国加重平均で1,177円となりました。
東京都は1,280円、千葉県は1,195円となり、首都圏の企業にとっても人件費への影響は小さくありません。
最低賃金対応で重要なのは、法定額を下回る従業員だけを探して時給を変更することではありません。
割増賃金や保険料を含む総人件費、社内の賃金バランス、扶養・社会保険と勤務時間、人員配置まで一体で検討する必要があります。
毎年最低賃金ぎりぎりで修正を繰り返すのではなく、次回の引上げも見越した賃金設計に切り替えることは、事務負担の軽減だけでなく、採用や定着の面でも意味があります。
桜井労働法務事務所では、最低賃金の適合確認に加え、賃金表、諸手当、労働条件通知書、社会保険の適用、人員配置を含めた労務管理の見直しについてご相談を承っています。
自社だけで判断しにくい点がある場合は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
参考資料
- 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」
- 厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
- 厚生労働省「最低賃金のチェック方法は?」
- 厚生労働省「対象となる賃金は?」
- 厚生労働省「最低賃金の種類は?」
- 厚生労働省「「年収の壁」への対応」
- 厚生労働省「最低賃金制度とは」

