生成AIで労務相談は完結する?それでも社労士が必要な5つの理由
ChatGPTをはじめとする生成AIの普及によって、これまで専門家に聞かなければ分からなかったことも、簡単に調べられるようになりました。
たとえば、「有給休暇は何日付与される?」「残業代はどのように計算する?」「育児休業を取得できる条件は?」といった質問であれば、生成AIに聞くだけでも、ある程度の情報を得ることができます。
今後さらにAIの精度が高まれば、「労務相談もAIだけで十分なのでは?」「社労士に顧問料を払う必要はあるのだろうか?」と考える経営者が増えても不思議ではありません。
実際、情報を調べるだけであれば、生成AIは非常に便利な存在です。一方で、企業の労務管理では、法律を知っているだけでは解決できない問題も少なくありません。
今回は、生成AIが普及する時代において、それでも社労士に相談する価値がどこにあるのか、5つの観点から考えてみます。
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監修者
桜井 吏(さくらい つかさ)
特定社会保険労務士
中小企業診断士
生年月日:1990年(平成2年)生まれ
出身地:山形県米沢市
趣 味:スポーツ全般
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生成AIは、労務管理においても非常に便利なツール
まず前提として、生成AIを否定する必要はありません。むしろ、適切に活用すれば非常に有効なツールです。
厚生労働省などが公表している制度について概要を確認したり、専門用語を分かりやすく説明してもらったり、社内文書のたたき台を作ったりする用途では、大きな力を発揮します。
これまで何十分もかけて検索していた情報を、数秒で整理できることもあります。経営者や人事担当者にとって、生成AIを活用するメリットは今後さらに大きくなっていくでしょう。
しかし、ここで一つ注意したいのが、「情報を調べること」と「会社として判断すること」は別であるという点です。
ここに、AIと社労士の大きな違いがあります。
理由① 一般論ではなく「この会社ではどうするか」を考えられる
生成AIは一般的な情報を整理することがとても得意です。
もちろん昨今では、AIがユーザー毎にカスタマイズして回答するようになっておりますが、実際の労務相談では「法律上どうなっているか」だけではなく、「この会社ではどう対応するべきか」を考えなければなりません。
例えば、ある社員について「勤務態度に問題があるため配置転換を検討している」という相談があったとします。
法律や制度について調べるだけであれば、生成AIでも一定の情報を得ることはできます。
しかし、実際に対応を考えるためには、
・これまで本人へどのような指導をしてきたのか
・就業規則にはどのように定められているのか
・他の社員にはどのような対応をしてきたのか
・本人との関係性はどうなっているのか
・配置転換によって別の問題が起きないか
・経営者はどこまでリスクを許容できるのか
といった会社毎の社内事情まで考える必要があります。

同じ質問であっても、会社によって答えが変わることは珍しくありません。
社労士の役割は、単に法律を説明するだけではなく、会社の状況を踏まえて現実的な選択肢を考えることにあります。
そして、社労士自身も責任を持って、その企業の神輿を一緒に担ぐ気持ちでご支援するべきだと考えます。
理由② 法律上の正しさだけでなく「実務上どうなるか」を考えられる
労務管理では、「法律上問題がない」ことと、「実際に問題にならない」ことは必ずしも同じではありません。
生成AIも、十分な情報を与えれば、一定のリスクや想定される問題を洗い出すことができます。
それでも実際の企業では、
・この管理職が本人に説明すると、どのように伝わるだろうか
・今このタイミングで実施すると、他の従業員はどう受け止めるだろうか
・制度として正しくても、この会社で運用できるだろうか
といった、非常に現場的な問題が出てきます。

例えば、就業規則上は可能な対応であったとしても、その伝え方によって従業員との関係が悪化することがあります。
逆に、従業員に配慮するあまり曖昧な対応を続けた結果、後から会社側が対応しづらくなることもあります。
人事労務の難しいところは、法律だけでなく、人間関係や組織運営まで含めて考えなければならないことです。
社労士は、法律上の論点だけでなく、実際の現場で起こり得ることまで含めて対応方法を検討します。
「法律上できるか」だけではなく、「実際にその対応をしたら何が起きる可能性があるのか」まで考えることが、専門家へ相談する意味の一つです。
理由③ 経営者自身も気付いていない問題を整理できる
労務相談では、最初に相談された内容と、本当の問題が異なることがあります。
例えば、「最近、社員の残業が増えているので何とかしたい」という相談があったとします。
単純に考えれば、残業時間を減らす方法を検討することになります。しかし詳しく話を聞いていくと、
・特定の社員だけに仕事が集中している
・管理職が業務量を把握できていない
・営業部門と現場部門の連携が悪い
・人事評価制度によって長時間労働が助長されている
など、別の原因が見つかることがあります。

つまり、相談者自身が最初から正しい課題を認識しているとは限りません。生成AIは、与えられた質問に対して回答することは得意です。
しかし専門家との相談では、質問そのものを一緒に整理することができます。「そもそも本当に解決すべき問題は何なのか」を考えることも、社労士の重要な役割です。
理由④ 会社のこれまでの経緯を踏まえて継続的に判断できる
生成AIについても、会社の情報や過去の履歴を蓄積することで、継続的な文脈を踏まえた回答ができるようになってきています。
そのため、「AIには過去のことが分からない」という点だけで、人間の専門家との違いを説明することも難しくなっていくでしょう。
重要なのは、単に過去のデータが残っているかどうかではありません。
企業の労務管理では、
・以前は同じケースでこのように対応した
・この社員にはこれまでこう説明してきた
・この制度を導入したときには、こういう経営判断があった
といった経緯の意味を理解する必要があります。
そして時には、「以前と同じ対応をするべきなのか」「会社の状況が変わったので、方針を変更するべきなのか」という判断も必要です。
顧問社労士であれば、単に履歴を参照するだけでなく、これまで会社がどのような考え方で判断してきたのかまで踏まえて相談することができます。
今後、AIにもこうした情報を蓄積し、社労士自身がAIを活用することによって、より質の高い支援ができる可能性があります。
「AIか人間か」ではなく、AIによる情報整理と、専門家による継続的な判断支援をどう組み合わせるかが重要になるでしょう。
理由⑤ 人間だからこそ経営者の「思い」に寄り添える
労務相談では、必ずしも最初から相談内容が明確になっているとは限りません。
「何となく気になっている」「うまく言葉にできないけれど、このままでいいのか不安」「制度の話だけではなく、自分の考えも聞いてほしい」そうした状態で相談されることもあります。

このようなとき、専門家に求められるのは、単に正しい情報を伝えることだけではありません。
経営者の表情や話し方、これまでの経緯、会社への思い、従業員との関係性など、さまざまな要素を踏まえながら話を聞き、「本当は何に悩んでいるのか」を一緒に整理していくことも重要です。
そして実際には、「この社労士事務所だから話したい」「この先生だから相談したい」と思っていただける関係性そのものが、専門家の大きな価値になることもあります。
生成AIも、与えられた情報をもとに非常に高度な回答ができるようになっています。一方で、基本的には利用者側から質問したり、状況を入力したりすることで対話が始まります。
つまり、本人が相談すべきことに気づいていなければ、その情報自体がAIに渡らないということもあります。
日頃から関わっている社労士であれば、
・「以前と少し雰囲気が違いますね」
・「最近、この話が何度か出ていますが、何か背景がありますか」
・「もしかすると、制度の問題というより組織の問題かもしれません」
といった形で、相談者自身がまだ言葉にできていない部分に気づけることがあります。
経営者を一つの質問だけで見るのではなく、これまでの会話や会社の状況、人間関係、価値観などを多面的に理解しながら支援できる。
これは、人と人との継続的な関係があるからこそ生まれる価値です。AIがどれだけ進化しても、労務相談がすべて「質問と回答」だけで完結するとは限りません。
時には、答えを出すこと以上に、「話を聞いてもらえて整理できた」「自分の考えを理解してもらえた」ということ自体が、経営者にとって重要な意味を持ちます。
AI時代だからこそ、社労士には知識だけではなく、経営者の思いに寄り添い、信頼関係の中で一緒に考える存在であることが、これまで以上に求められていくのではないでしょうか。
まとめ:AI時代だからこそ、社労士に求められる価値は変わっていく
生成AIの進化によって、労務に関する情報収集や整理、一定の分析までできる時代になりました。
一方で、実際の労務問題では、会社ごとの事情やこれまでの経緯、人間関係、経営者の考え方まで踏まえて判断する必要があります。
今後は、「この先生だから相談したい」と思っていただける関係性そのものも、大切な価値になると考えています。
まずは社労士に相談する
労務について、「AIで調べてみたけれど、この判断で本当に大丈夫か確認したい」「自社に合った対応を一緒に考えてほしい」という場合は、お気軽にご相談ください。

